日本へようこそ ありがとうございます。 本日はスウェーデンからゲストをお迎えしています。 トーマス・コーバーガーさんです。 スウェーデンのエネルギー庁長官であり、私の長年の友人でもあります。 まず簡単に自己紹介をお願いできますか? はい、私はスウェーデンのエネルギー庁長官を3年半務めています。 それ以前は研究機関で働いておりました。 エネルギー業界、特にバイオエネルギー業界でも働いておりましたし、 また風力発電会社や太陽エネルギー業界でも仕事をしていました。 トーマスと私は原子力工学の世界で知り合い、 非営利団体で学問の世界や政府や業界とのやりとりをしてきました。 私達は互いに、日本のトーマス、これは私のことですが、 スウェーデンのテツと呼び合っています。 さて福島の事故ですが、どこでお知りになりましたか? どのような印象を持たれましたか? 他の方々と同じように、地震のニュースを知ってまず、日本の原子炉に対する恐れが頭に浮かびしました。 福島関する最初のニュースは、比較的な小規模な事故で短時間で収拾可能だろうというものでしたが、 続報では、事故が深刻なものへと進展したというものでした。 その後数日で、炉心に深刻な損傷が起こり、 非常に幸運なことに事故後ほとんどの時間、風が海に向かって吹いていました。 その結果、住民の健康や日本経済にとって本当に悲劇的な事態が避けられました。 私はポツダムのIRENA(国際再生可能エネルギー機関)の会議に参加していましたが、 最近、倫理委員会の議長に指命されました。 私は日本の国外におり、何が起きているかをインターネットで見ていました。 そのとき驚くべきものを目撃しました。 地震が発生したのは日本時間で3月11日の14時46分でした。 その後わずか6時間後の午後10時35分に、 官邸のサイトにあるドキュメントが出ました。 それはよく練られたものではなくラフなもので、 東京電力によって行われた短い予備的な評価に関するドキュメントでしたが、 1時間前に水位が燃料棒のレベルまで下がり、 15分前にメルトダウンが始まったと推測される。 圧力容器が1時間後に破壊されるだろう、と書かれていました。 私は内閣の内外の政治家やジャーナリストに電話をしました。 結局、内閣や原子力安全委員会からは何の反応もありませんでした。 翌日、水素爆発が起こりましたが、避難区域はたった3kmでした。 政府は何のリスクマネジメントも緊急措置も行いませんでした。 驚くべき事に、破局的な事態が進行しているにもかかわらず、 政府の態度には緊急事態、ましては破局的事態の感覚はありませんでした。 最初の日、そして何日か後までそれは続きました。 それは日本の原子力村のメルトダウンとでも言うべき事態でした。 スウェーデンの社会や政界や業界は福島の事故に対してどのような印象を持ったのでしょうか? 理解の度合いによってさまざまだったと思います。 多くの人々が米国の反応に注目しました。 米国は情報に関して有利な立場にあったからです。 米国は福島沖の海軍の船や日本の海軍基地からの情報を持っており、 早い段階でこれが深刻な事故であることを認識していました。 一方、原子力に対する態度、ことに新しいタイプの原子力に対する態度が、 長い年月の経過とともに徐々に変わってきました。 原子炉のコストがとても高いということがはっきりと認識されてきたからです。 多くの新しい事故がはっきりと示しているのは、 原子力が経済的に割に合わないということです。 誰も関わりたがらず、誰も巨額の投資をしたがらず、 誰も大事故のリスクをとりたがりません。 社会的なリスクだけでなく、投資家にとってのリスクに注目すべきです。 私も、ほとんどすべてのスウェーデンのテレビ局からのインタビューを受けました。 ヨーロッパの他の原子力発電を行っている国々についてはいかがでしょう。 ヨーロッパの国々の政策変更は様々です。 最もはっきりと方向転換を行ったのはドイツ政府です。 (福島の)事故の前には明らかに原子力の継続で一致していましたが、 福島の事故から素早く学び、 ド イツの原子力は数年内にフェード・アウトすべきであるとの立場に、素早くシフトしました。 その理由は、ドイツではその決定が実現可能であるからです。 ドイツはこの数年、風力や太陽による電力の導入に成功してきた国の一つです。 原子力を再生可能エネルギーで置き換えていくことが実現可能で経済的に割に合うことだということを、 ドイツの産業界や世論に納得してもらうことは、非常に容易です。 スウェーデンやイギリスのように連立政権内で 原子力政策で不一致がある国の場合、 交渉を積み重ねた結果としての合意書が政権樹立の基礎となっているため、 政策の変更はとても困難で、政権内で難しい交渉を再開しなければならないからです。 スウェーデン政府の立場は、古い原発をコスト高のために置き換える場合には 新しい原発の建設を認めるというものです。 そのかわり、新しい原発には国によるいかなる補助金も与えません。 政府内の一方の対抗勢力は、この政策により原発を追い出すことができると確信していますが、 他方、原子力の熱狂的支持者は補助金無しでも新しい原発は競争力を持ち得ると信じているかもしれません。 ヨーロッパの経験によると、スウェーデンの隣国フィンランドでは、 長年継続していて2009年に完成予定だった30億ユーロの原発プロジェクトがありますが、 現在の見積もりによると完成は2013年でコストは当初の2、3倍といわれています。 このコストは実現可能な代替手段というには高過ぎです。 投資家に興味を持ってもらうためには、 最も最近に建設された原発よりも低いコストで建設できる必要があります。 そのような最近のフィンランドの事例を見ても、スウェーデンの原発推進派は(ローコストでの建設が)可能だと思っているのでしょうか? フィンランドの失敗から学ぶことにより、よりローコストで新しい原発を建設できると主張する人はいます。 しかし、そのような主張を公然と行う人はいますが、 彼らが自分の資金を実際に投資するかどうかを見れば、本当にチャンスがあるかが分かるでしょう。 米国の70年代、フランスの70年代や80年代の、 大きな原発プロジェクトのコストがどのように上昇したかを見ると、 事態は投資家を勇気付けるものではありません。 むしろ新しい原発はよりコスト高であるということです。 なぜならより複雑になっており、おそらくより危険ではなくなっているでしょうが、 より経済的に競争力が増したとは言えないからです。 これは再生可能エネルギーへの投資においてよい成果が得られたからで、 新しく導入するものが古いものより安くなっています。 特に過去2年間に風力や太陽光発電の投資コストが明らかに下がったことにも表れています。 ドイツ政府が原子力のフェードアウトの決定をした後、 イタリアの原子力に関する国民投票が行われました。 私達は第二次世界大戦における日独伊三国同盟を思い出しますが、 新たな三国同盟です。 これは半分冗談ですが、残りの半分はこれら三か国は核兵器の所有が許されていないことに注目すべきです。 原子力に固執する他の国々は核兵器保有国です。この関連性についてどうお考えでしょうか? 歴史を顧みれば、1950年代や60年代のスウェーデンの原子力計画でさえ、 軍事的な野心といわゆる民間の原子力開発の間には明らかな繋がりが見られます。 このような関係は多くの国々でみられました。 現代において原子力が必要とされる規模としては、 電力供給の分野が核軍備の分野を大きく上回っています。 兵器目的のプルトニウム生産に対する経済的なインセンティブは 大規模原子力発電を正当化するために必要とされました。 特に日本の原子力政策は経済合理性を著しく逸脱しています。 日本には六ヶ所村の再処理工場があります。 5、6年前に経済合理性に関する論争が行われましたが、 最終的に保守派が主張したのは、我々には使用済み燃料からプルトニウムを取り出す権利がある、ということでした。 この機を逃せば、(プルトニウム分離を)米国政府に認めさせることは永遠にできない。 これが再処理を継続する中心的理由でした。 私達には200トンの年間処理能力のある東海村再処理工場もあります。 ところで、スウェーデンや他の北欧諸国における 再生可能エネルギーの導入状況はいかがでしょうか? スウェーデンにおいて、再生可能エネルギーの導入は極めて順調です。 昨年には電力の55%、総エネルギーの50%が再生可能エネルギーで賄われました。 スウェーデンにおいて最も成長が著しく、最も大きなエネルギー源はバイオマスです。 それらは量においても成長の速さにおいても2、30年前の予想をはるかに超えています。 現在では全消費エネルギーの3分の1はバイオマスです。 一昨年から昨年にかけてのバイオマスの供給エネルギーの増加は大規模原発1基に匹敵するものでした。 スウェーデンのバイオマスはエネルギーのために用意されたものではなく、 従来はやっかいな廃棄物だったものを賢く利用しているのです。 たとえば農業や食品業界からの廃棄物、 製材所などの林業から出る廃棄物、パルプ業界から出る廃棄物など それらの一部はそれぞれの業界内で使われています。 たとえばスウェーデンのパルプ業界全体では、エネルギーを大規模に自給しており、 少なくとも1社においては、トータルにエネルギーの売り手になっています。 それらは電力、地域暖房のための熱、木材ペレットのようなバイオマス燃料です。 もし石油や世界的にエネルギー価格が上昇した場合には、 これらの企業は収益や競争力が高まる結果となります。 10年、20年前には石油価格の上昇によって収益や競争力が損われる状況でした。 他の成功例としては、家庭から出るゴミを スウェーデンのすべての都市の家庭の暖房に使うことです。 スウェーデン全体として、石油価格が上昇した場合に損失ではなく利益を得る状況になっています。 世界的なエネルギー価格の上昇した過去10年にはとても喜ばしい状況でした。 それは化石燃料の価格や気候に関する制約条件のためにヨーロッパの電力の価格が上がったことによるものでした。 前首相ヨーラン・ペーションの時代の2006年に、 あなたは2002年までに石油のない国にすると言われましたが、 それは今でも変わっていませんか? 彼が言ったのは石油に依存しない国にするということです。 現在政府も同様のことを主張しています。 2030年までに化石燃料に依存しない輸送を実現し、 2020年までに石油に依存しない暖房を実現したいと言っています。 石油や他の化石燃料の使用を減らすということは、 スウェーデンのすべての政党が同意しており、 世論も化石燃料への依存を減らすことにはっきりと賛同しています。 日本や米国やEU諸国を含む殆どの国が、 天然ガスを(再生可能エネルギーへの)移行段階のエネルギーとして考えていますが、 スウェーデンでは違うのでしょうか? 私達は少し天然ガスを利用しており、スウェーデンの南西海岸地域には天然ガスのパイプラインがあります。 一部は産業に、また一部は二つの都市のコージェネレーションに使われています。 また化学産業や輸送にも使われています。 それらはバイオエネルギーの約10%ほどです。 天然ガスは小さな燃料であるため、バイオマスを大量に利用する現状では天然ガスの使用を増やす必要はありません。 世界のガス価格や炭素税、そして天然ガスの使用による二酸化炭素の排出を考慮すると、 天然ガスの競争力は弱いと考えています。 スウェーデンのガスのパイプラインに投資しても得られる利益は少ないでしょう。 あなたが導入された電力証明制度、これは日本のRPS(Renewables Portofolio Standard)と同様のスキームですが、 同じ2003年に導入されましたが、あなたはその制度を維持しておられます。 当初スウェーデンではRPSによって風力発電は普及しませんでしたが、近年急激に延びています。 当初、最もローコストな電力供給を増やすための選択肢はバイオマス燃料を使った地域暖房によるコージェネレーションプラントでした。 その結果たくさんのバイオマスを使った再生可能エネルギー発電施設が建設されました。 熱の供給が地域暖房や産業界のコージェネレーションによって十分に普及したため、 風力が最も有利な選択肢となってきました。 同時に風力の建設コストが下がり、競争力が増しました。 その結果ここ2、3年では1日に1箇所の割合で大規模風力発電施設が建設されています。 昨年11月時点で過去12ヶ月に3テラワット時、 今年3月時点では過去12ヶ月に4テラワット時、 今後数週間以内、8月か9月には、過去12ヶ月に5テラワット時を超えるでしょう。 風力発電への投資は確かに好調です。 RPSあるいは電力証明制度は頻繁に改良されており、 目標をより高く設定しています。 既にある目標を高めるだけでなく、 対象期間をより遠くに設定しています。 どのような対象期間と目標値でしょうか? 2020年までに25テラワット時という目標です。 目標値は増やし続けます。 15年で施設は運転停止されるため、成長は頭打ちになり、 RPSクォータの実現は難しくなりますが、 再生可能エネルギーへの投資の成績が非常によいため、産業界にはさらなる目標引き上げにの準備ができていると思われます。 電力料金は昨年、約3分の1下がりましたが、 導入は非常に好調です。 日本のRPSは、低い目標値と少ない参加者のために失敗しました。 特に太陽光発電のコストはまだ高いため、 市場に参入するのは難しいと思われますがいかがでしょう? スウェーデンのRPSの目的は、最も低コストの選択肢を得ることです。 たとえば太陽光発電産業を育成する産業政策は完全に失敗でした。 スウェーデンの太陽光発電市場は非常に小さく、 少しだけ太陽光発電への補助金が残っていますが、 フィード・イン・タリフ制度がある国、ドイツやスペインに較べると、スウェーデンには太陽光発電は非常に少ないです。 また風力に対する投資も、ドイツやスペインに較べると限られています。 ここ2、3年の風力や太陽光発電のコストの劇的な低下は、それらの収益可能性を飛躍的に拡大しました。 その結果、風力や太陽光への投資が、フィード・イン・タリフの予算的制約に影響されるレベルに達したため、 制度の見直しが必要となりました。 日本でしばしば行われる議論に、風力や太陽光は変動が激しいため、管理が難しいと言われます。 また、ヨーロッパは各国は送電網で結ばれ、スウェーデンやノルウェーには巨大な水力が存在するので、バックアップとして使用可能である。 再生可能エネルギーに関連したスウェーデンの送電網の状況はいかがでしょうか? これらの断続性の議論はヨーロッパやスウェーデンでも行われます。 私達には公開された透明性の高い電力のスポット市場があり、電力の生産や消費のデータをインターネットで誰でも見ることができます。 需要の変動の激しさもはっきり目にすることができますし、 風の強く一番寒い週には風力発電量が多くなる正の相関関係や、 また夏の週には電力需要が最も少なくなることもわかります。 供給が断続することの問題は、従来の電力技術にもあてはまります。 過去2、3年間で、原子力事故ではありませんが、他の技術的な問題のために多くの原発が予想外の緊急停止し、 何千メガワット時も予想外に必要となりました。 またある時、定期的な燃料の交換や更新の後に予期しない起動の遅れが発生しました。 スウェーデンの電力市場参加者のほとんどが理解していることは、 必要な時に必要な電力を供給できないのは、再生可能エネルギーに限ったことではないということです。 このような事態への解決策として、 技術的な障害が影響し合わないような小規模なプラントの適切な組み合わせです。 私達に必要なものは十分に投資された高性能な送電網で、 風が吹いていたり、太陽が照っていたり、発電設備が正常に稼働している地域から 技術的な問題が発生していたり、風が吹いていなかったり、太陽が照っていない地域へ 電力を運ぶ必要があります。このような強力で高性能な送電網は 電力コストの削減への美しい解決策です。 なぜならこの送電網によってもっとも広い系統内で最も低コストの発電機会を利用できるようになるからです。 これは系統全体としての発電コストを低下させ、 その結果消費者の電力価格を低下させることができます。 このような送電網への投資は巨額であるとも言えますが、 同時にその巨額な投資は、電力供給システム全体への投資額から見れば 小額であるとも言えるのです。 高性能送電網への投資の割合を増やすことで、電力供給システム全体への投資額を減らすことができます。 特にあなたはスウェーデン内だけではなく、 ポーランド、ドイツ、デンマーク、ノルウェー、スコットランドとの間にもスーパーグリッドを進めておられますね。 伝統的には、送電網は政治的な理由で国家内のものでした。 この2、3年、ヨーロッパでは国境をまたいだ送電能力への投資が増えています。 その結果として電力価格の平準化や電力コストの削減が実現しています。 またより意欲的な送電能力の増強計画が、例えばさきほど言及されたスカンジナビアとイギリスを結ぶ計画は、 北海やバルチック海の海上風力の機会を広げる効果も持ちます。 ある海上風力発電パークのプロジェクトは、数機の原子炉を持つ大規模原発に匹敵する発電能力を持ちます。 これらは金融面から見ても巨大な投資ですが、 発電量としても巨大なプロジェクトです。 電力の取引ですが、例えばデンマークは100%の需要を満たすほどの巨大な風力の発電能力を持っていますが、 ノルウェーの水力は風力の断続性を補うことができますね。 どのような取引が行われていますか? 非常に活発な取引が行われています。 ノルウェーはデンマーク西部の風力が余っているときに購入し、 デンマークの風が吹いていない時にノルウェーは水力電力を輸出しています。 水力発電は著しい優位性を持っています。なぜなら電力価格が低いときには単にゲートを閉じるだけで エネルギーを水として蓄えておくことができるからです。 そして価格が高くなったらゲートを開けて発電すればよいのです。 これが典型的なノルウェーとデンマークの間の関係で、同様の関係がスウェーデンとデンマークの間にもある程度成立しています。 送電能力に対するさらなる投資の機会があるのは、 デンマーク西部の風力の電力価格が変動するうえ、その地域にはまだ風力の発電導入の余地がまだあるためです。 日本ではまだ、電力消費者は電力独占のために敵対的で、電力のオープンな市場についてほとんど知られていません。 北欧諸国には共通のオープンで競争原理の働く市場があります。 それはフィンランド、スウェーデン、ノルウェーそしてデンマークで構成されています。 オープンな電力市場はノルウェーで始まり、その後スウェーデンが、さらにフィンランドとデンマークが参加しました。 そのような競争原理の働く市場を可能にするための前提条件として、 送電網や配電網の制御権や所有権と、発電事業者の利益を分けることが必要です。 送電網や配電網の管理は独占事業のため規制されています。 たくさんの配電事業者が存在しますが、どのような条件でどのぐらいの料金を徴収してよいかは規制されています。 発電事業者は毎時間、電力市場に発電のオファーを出します。 電力消費者や電力小売業者は市場に必要な電力量と価格をビッドします。 電力小売業者は市場で電力を購入し、消費者に売ります。 市場の均衡点で時間ごとの価格が電力使用の前日に決まります。 電力消費者は電力供給者と契約を結び、年間の電力使用量も決められます。 供給者は消費者が使いたい電力量を送電網に供給することを約束します。 それらは国の送電網で計測され検証されます。 電力システム全体で毎秒バランスが保たれています。 このシステムは非常にうまく機能しています。 競争原理が働くため導入当初、電力価格が劇的に下がりましたし、 最も重要なことは価格形成が公正になったことです。 だれでもインターネットで時間毎、月毎の電力価格を知ることができます。 電力小売業者は少しだけ価格を上乗せすることができますが、ここにも競争原理が働いています。 顧客はスポット市場の価格をチェックでき、自分が払っている価格との比較や、他の小売業者との価格と比較ができます。 これらは大口、小口のどちらの顧客にもあてはまります。 電力会社が小さな顧客にたいして法外な価格を払わせて、それを政治的に影響力の大きな顧客への補助金に用いるといったことはできません。 競争原理の働く透明性の高い市場が確立したことは電力消費者にとっての大きな利点となっています。 ある専門家は、日本でオープンな電力市場を導入すると、大規模停電のリスクが増すと、カリフォルニアのケースを例示して主張しています。 カリフォルニアのケースは賢く設計されていたとは言い難いと思います。 電力生産者と小売業者が市場に参加しましたが、 電力小売業者はある価格以上の料金を顧客に課すことを許されていませんでした。 その結果電力価格がどんなに高くなっても、電力消費量は影響を受けませんでした。 電力の消費者価格に反映されなかったからです。 そのような仕組みを導入したら、電力供給者は小売業者を簡単に殺すことができのは明らかです。 小売業者は電力の仕入れにとんでもない額を払わされ、顧客にはそれを請求できませんでした。 それは、とても賢いとは言えないやり方でした。 スウェーデンでは自由なスポット市場があり、ときどき高い値をつけますが、 それは最終的に消費者の価格にも反映される仕組のため、 消費量にも影響を与えます。 したがって電力生産者がカリフォルニアで行ったようなやり方で、市場に影響力を行使することはできません。 自由な市場を導入したために生じる大停電のリスクはありません。 市場には顧客に電力供給のためのコストを支払わせ、 もし支払わなかったら電力を供給しない仕組みがあります。 顧客に対して電力網から取り出すことを許しただけの電力量を、電力網に対して供給する責任者が必ず存在します。 もし誰かが失敗したらその責任者が代償を支払わなければなりません。 誰かが電力バランスを保つことに失敗したら、必ず誰かが支払わなければなりません。 倒産したくなかったら誰も大規模停電を起こしません。その恐れが発生したら、国の電力網が他の手段によってバランスを保ちます。 私はスウェーデンやデンマークで、ベクショーやゴットラントのような、 ローカルでボトムアップなエネルギーに関する活動のケースを見て回りましたが、 最近の興味深く目覚ましい革新的でローカルなケースを話していただけませんか? 建設的で重要な試みはたくさんあります。 協同組合によって設立された風力発電会社ですが、 多くの顧客が集まって、投資を募り風力発電プラントを建設しました。 これは理想主義的な個人の顧客の活動として始まりました。 彼らは風力による電力なら電力小売業者から購入する価格より高い価格でも購入したいという希望を持っていました。 彼らの試みは収益性が高いことが証明されました。 過去2、3年の間に、風力発電能力に投資する営利企業の数が急激に増えました。 例えばイケア、これは大きな住宅関連会社ですが、また海運会社さえも風力への投資を始めました。 なぜなら風力は利益の見込める事業になったからです。 風力への投資の意欲は、従来電力事業を行ってこなかった企業のほうが大きい傾向があります。 その理由の一つは、従来の電力事業者は既存の発電施設を保有しており、 風力発電能力を増やすことは、電力価格を押し下げることに貢献して既存の発電施設の収益を減らす結果となるからです。 したがって風力への新しい参入者に較べ、既存の電力会社にとっては風力への投資の利点は少ない状況です。 殊に、電力の使用に強く依存した業界の企業、 それらは従来、電力コストを下げるために新たに原発の建設を主張していましたが、 それらの企業は現在ではもっぱら風力発電プラントのみに投資しています。 その理由も同じで、低コストの電力の供給を増やすことで電力コストの低下を狙っています。 10年か15年前、あなたはグリーン電力を始めまられました。 ファルケンベリがそのスキームを導入しました。その後いかがでしょうか? コンペティションのすぐ後に、競争原理の働くマーケットが形成されました。 電力の供給契約に環境に関する環境NGOによるラベリングを導入しました。 この仕組みはすぐにEUが導入しました。 その狙いは、自分が購入した電力がどのように作られたのかを、電力供給会社に公開させることでした。 自分がどのような電力にたいして支払っているのかが分かるようにしたのです。 市場はうまく機能しました。このことはとても重要で、 競争原理が働く市場の顧客は選択できるという力を持ちます。 それは同時に、自分の選択に対する責任を負うことにもなります。 もし、原子力や化石燃料による電力を用いて生活すると仮定すると、 重要なのは、もし福島のような事故が起きた時に、だれに責任があるかがを知る必要があるということです。 事故の被害を受ける人は、理想的には責任を負うべきではありません。 北欧電力マーケットのような競争原理の働くマーケットの顧客、殊に産業界の顧客で、意図的に原子力による電力を購入しているということは、 事故が起こったときにはリスクになりえるということを理解していると思います。 なぜなら事故が起こったときには、この会社はこの原発の電力を買っている会社だということが分かってしまうからです。 多くの企業が原子力や化石燃料による電力の購入を明示的に避けています。 政府のポリシーとしてあるのは、まずはエネルギー効率の向上、そして自分で発電、殊に風力発電能力を持つこと、 そして次の選択しとしては、再生可能エネルギーだけを電力供給会社から購入することです。 昨年の市場の動向を見ると、このような企業の多くは自分で発電能力を持つことを選択しています。 このような選択をした企業が理解したのは、その選択が社会や評判にとって良いことであると同時に もうかる選択でもあるということでした。とてもおもしろいことです。 では多くの電力供給会社は電力のメニューを提示しているのですか? 多くの企業がそうしています。大きな電力供給会社のいくつかも 再生可能エネルギーの契約を提示しています。 電力のエネルギー源を保証するのですか? そのとおりです。 福島後の日本のエネルギー政策や社会に対して提案をお願いできますか? 基礎的な部分では、もし新しい技術や新しい参加者が市場に登場して近代化を実現して欲しければ、 送電や配電事業を発電事業から分離して市場をオープンにすることはとても重要です。 もし従来と同じ巨大電力会社が送配電網をコントロールするならば、 複雑なルールを作るなどの手段で、経済的行政的に、新しいプラントを電力網に接続することを事実上難しくすることにより、 新しい参加者を市場から閉め出すことを可能にしてしまいます。 この点が1990年代のスカンジナビアの電力市場の改革の最も重要な要素でした。 一方で送電と配電、もう一方で発電と電力販売の二つに分けたのです。 それは日本の電力市場を持続可能で効率的にするためには重要な要素です。 市場経済的な視点からは、しばしば目に見えない補助金の廃止、 たとえば事故に備えて要求される経済的な対処能力が有限であること、 公正な競争を保証する決定条件、 たとえば私がスウェーデンで導入したような燃料の種類に応じた環境に関する課税制度、 炭素税や、ヨーロッパの電力セクターにおける排出権取引制度、 その結果、環境コストが価格の上で明らかにできます。 炭素税の導入において重要なことは、炭素税は課税レベルを上げるものではないということです。 1990年代に炭素税が導入されて税率が引き上げられたときには、 課税のシフトとして実行されました。 炭素税を上げるときには、もっとも破壊的で不人気な税が減らされました。 たとえば所得税などが減税されました。 政府の財政担当者は炭素税の税収が増えることで満足でした。 税制によって市場の効率化や社会的コストである公害の減少を実現する機会をとらえ、 同時に破壊的で非効率で不人気な税制を減らすことは重要です。 ほとんどすべての人々がその措置により利益を得られ、 明らかに多数の人々が理解を示すでしょう。 もし社会が理性的民主的であればそうなるでしょうね。 情報を提供することにより、人々を理性的民主的に振る舞うための手助けをすることはいつでも可能なことです。 私達は歴史的な危機に直面しています。 引き続き注目していただき、アドバイスや支持や援助をお願いしたいと思います。 ありがとうございました。